トランスポンダーでできること、するべきこと
降雨で路面は高め、M08は通常と異なるタイヤセットを試していました。タミグラ仕様の17.5T x 20Tでのタイムですが、路面が重くタイヤもベストチョイスではないことを加味してもベストラップは少し抑えめ、クルマは安定していたのでアベレージはベストから0.3″ 程度に収まってくれました。
サーキットでご一緒下さったドライバーさんのスープラ。ほぼ箱出しのXBです。最近サーキットデビューされたというドライバーさん。後ほどご友人も合流されるとのことでしたが、お一人のときの練習は方法や目標などが分かりにくいですよね、とのことでトランスポンダー(通称、ポンダー)と呼ばれるタイム計測用機器を搭載して走行してみることに。
実際に計測した結果。Lap 2 - 6とLap 8 - 20は別のドライバーによるタイムです。同じクルマをドライブしても異なるタイムになるには理由があります。また、同一ドライバーによるリザルトでも同じようにリザルトには何かしらの理由があり、それを紐解いていくことでたくさんのことが見えてくるわけです。たとえば
+現在のクルマのポテンシャルを最大限に引き出せているか
+現在のクルマのセッティングはターゲットタイムに届くものか
+ターゲットタイムに届いた場合でもアベレージが安定しているか
+想定するレースタイム内でバッテリーやモーター、タイヤがポテンシャルをキープできているか
+他車との混走の場合でも、同じベストラップを出すことができ、またアベレージをキープできていたか、できる可能性があるか
など、クルマのポテンシャルと外的要因、そしてドライバーのドライビング、メンタルコントロールといったさまざまな要素が凝縮されています。
今回のアタックのベストラップを紐解いてみます。
下5列がオーナードライバーさんによるドライビングのベストラップ(それ以外は別のマシンのベストラップなどで、比較対象外です。)
走行前、オーナードライバーさんとの会話の中で以下のようなアドバイスをさせて頂きました。
+直線でふらつきにくくなるための目線
+クルマの向き、コース内での位置どり(いわゆるライン)をイメージすること
+近くの他車を強く意識せず、自身のマシンのドライビングに集中すること
の3つ。
走行を重ねるたび、ベストラップが上がっているのが分かります。クルマは変わっていないのにベストラップが上がっている、ということはドライバーがクルマを使いこなせてきているということ。マシンセッティングはもちろんタイムアップに貢献する大きな要素ですが、認知や判断、意識という要素もタイムアップに貢献していることが分かります。適切かつ正確なハンドリングやスロットルといったドライビングテクニック(=ものを使う技術)だけでなくメンタルもドライビングに影響します。
特にレースなど多数台走行の場合、単独走行とは異なるさまざまな状況・情報が入ってきます。単独走行やクリーンな状況ではタイムは出せるが、レース中せめぎあうシーン、追う、追われるなどの状況でミスが出てしまう、ぶつかってはいけないと思ったコーナーや見たクルマにぶつかっていってしまう、MCで名前を呼ばれるとミスをしてしまう、というのは中級者によくあることです。これは、タイムの速い遅いだけを見て練習をしてしまった結果、レースに対応できる認知力・判断力・メンタルコントロールを伸ばしきれていないためです。起こりうるさまざまなシーンで自身が最適な対処ができることはレースにおいて非常に強い武器となります。これこそドライビングスキルとして身につけておくべきことだと考えています。
実際、今回の走行の後半は3台による混走、かつオーナードライバーさんのマシンよりも速度域の速い2台との混走でしたが、避ける、避けてもらう、といった気を遣うシーンが数多くなりながらベストラップが伸びているのは、前述のドライビングができてきている証だと言えます。
写真の右側は今回の走行の中で最もいいタイムの出ていた最後の走行の全ラップタイムです。黄色の周回がベストラップ。その前後もベストラップからさほど遠くないタイムが並んでいます。ドライバーは今持てるドライビングテクニックで出せるベストラップに近いタイムを継続して出せていた、つまり、どの周回も高いポテンシャルで走れていた、ということ。これは初心者の方にはなかなかできないことなのですが、オーナードライバーさんはそれをこうして結果として出されています。
こうして、安定して周回ができるようになってくると、必然的にラインが安定してきます。そうすると、そのラインに無駄はないか、ライン上でのスピードロスはないか、といった建設的な問いが生まれ、それに対するソリューションとして、マシンセッティングをする、とかドライビングテクニックを磨く、といったアプローチを検討することができるようになります。
なんだか、速く走れるようになれそうだと思いませんか。
たった数グラムのトランスポンダーですが、こうしてタイムを紐解くことで多くのことが分かるようになります。何もわからないままサーキットへ通い、伸び悩む時間とメンタルの疲弊、走行料とタイヤ代を考えれば、トランスポンダーへの投資は決して高いものではないと思います。
何かと鋏は使いよう、と言いますが、ポンダーもできることは基本的にはタイムを計測する、というシンプルなものです。ですが、そこから収集できるさまざまなことに目を向けてあげることで、ドライバーとしてのスキル・センスが磨かれていくはずです。ぜひRCライフのお伴にクルマに積んでほしいアイテムです。